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 子どもが訴える平成の直訴から見えるもの

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昔、明治天皇に直訴した群馬県佐野市の郷士・田中正造という人物がいた。代議士であったが足尾銅山の鉱毒問題を政府に訴えても一向に埒が開かない末の行動であった。今では日本での公害の魁を成す鉱毒事件として、また時代の常識を超えた明治天皇への直訴という特異な行動をしたことによって社会の教科書にも登場する。

今回、文科省に「いじめが原因で自殺する」という内容の男の子が書いたと見られる手紙が届けられた言うが、直接、田中正造の直訴事件と比較することは出来ないかもしれないが、行政の姑息な対応には何も期待できないと思った少年の、やはり超法規的な訴えであるという点で同じなのではないか。「いじめ自殺問題もとうとうここまで来てしまったか」…そんな感慨すら覚えるのである。

文科省の銭谷真美・初等中等教育局長によると、あて名に「文部科学省 伊吹文明大臣様」と手書きで書かれた封筒に、(1)大臣(2)教育委員会(3)校長先生(4)担任の先生(5)クラスのみんな(6)クラスのみんなの保護者(7)両親――にあてた計7通の手紙が入っていた。6日午前中に郵送されて来たという。そして、8日までに状況が変わらなければ、11日に学校で自殺すると書かれていたという。「なぜ僕をいじめるのですか。キモイからですか。クサイからですか。なぜ僕のズボンをおろすのですか」と「クラスのみんな」に、「なぜ親がずっとまえから校長先生にいじめのことをいってもずっとなにもしないのですか」などと校長あてに書かれてあったという。(朝日新聞)

勉強を受験に特化した高校での未履修問題でも現場の高校生が怒りの声をあげていたが、それと同じである。一時期TVドラマで「事件は会議室で起きているのではない。現場で起きているのだ」という台詞がはやったが、構造は同じだ。世間の多くの人たちが今、形骸化した行政のあり方に苛立っているのである。だが、ちょっと待ってもらいたい。頭を冷やしてよーく考えて欲しい。それは果たして安倍政権が掲げるような形での対応なのであろうか。こういう形で教育行政の不備を指摘すればするほど何かおかしな方向に行ってしまうのではないかという危惧を覚えるのは私だけであろうか。

現政権は今国会中に新教育基本法の問題を片付けたい意向のようだ。だが、その方向が日本をとんでもない方向に導くだけで、本当に心から日本を愛する人たちのやり方とはとても思えないのだ。第一、多数の高校の未履修を招いた大学入試の問題や、一向に改善するとは思われないいじめ自殺の問題が、新しい教育基本法で何が解決するというのか。そもそも今なぜ教育基本法を変えなければならないのか、私には全く意図が見えない。